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プロ野球の協約で定められている減額制限とはどのような制度なのか?意味のない制度とは必ずしも言えない理由

更新日:
NPB

プロ野球がシーズンオフになると、翌年のシーズンに向けた各選手の契約更改が行われます。一億円を超える大きな金額が動く契約であるため、年俸が大幅に上がったり下がったりと話題沸騰になりますが、次のような言葉をよく耳にすると思います。

「野球協定で定められた減額制限を超えた減額の提示」

一瞬、あれっ?って思いませんか。ルールで決められた年俸の減額制限を超えた金額の提示、これは協定違反ではないのか?そんな疑問を抱いても不思議ではありません。しかしこれは協定違反ではないのです。

目次

野球協約の減額制限に関する記載内容

野球協約の第92条には、次のような記載があります。

第92条 (参稼報酬の減額制限)
次年度選手契約が締結される場合、選手のその年度の参稼報酬の金額から以下のパーセンテージを超えて減額されることはない。ただし、選手の同意があればこの限りではない。その年度の参稼報酬の金額とは統一契約書に明記された金額であって、出場選手追加参稼報酬又は試合分配金を含まない。

(1)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円を超えている場合、40パーセントまでとする。
(2)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円以下の場合、25パーセントまでとする。

金額減額制限の限度額
1億円超え40%
1億円以下25%

つまり、今年度の年俸が 2億円だった場合、同意なく減額できるのは 40% の -8,000万円まで。1億2000万円。ここで提示額が1億円だった場合、減額制限を超えた金額の提示となります。

そして「選手の同意があればこの限りではない」と記載のある通り、選手が同意するのであれば問題ありません。

選手の同意で許容されるのであれば意味のない規約なのか

減額制限内に収まっているのか、限度額を超えた金額なのか、その金額の違いで選手ができることも異なります。

野球協定で定められた減額制限を超えた金額に納得しなかった場合、選手側から自由契約になる道を選べるようになります。つまり該当球団を離れ、別の球団と交渉ができる状態に身をおくことになります。戦力外通告を受けた場合も、扱いは自由契約です。そして、もし他球団との契約合意に至らなければ、事実上の引退です。

一方、限度制限内に収まっている場合、選手は自由契約に身を置くことはできず、現在所属している球団内で交渉しなくてはいけません。つまり、球団として年俸を減らさざるをえないが選手を手放したくない場合、限度制限内での減俸を提示するというわけです。

限度額を超えた減俸額の提示は、選手が他球団への移籍を選択しても仕方ないということを示しています。しかし、限度額を超えた年俸ダウンの提示にも理由があるため、自由契約になっても他球団からの需要が無ければ、そのまま引退になる可能性が高いです。よって減額制限を超えても、まだその球団へ所属して野球をしたい気持ちがあれば、選手の同意により契約へ至ります。

つまるところ、一見選手のための規約のように見えますが、球団のための規約である方が色が強いですね。とは言え、年俸の減額上限の割合が、選手の同意に関係なく絶対的なものになってしまった場合、球団財政を圧迫してしまうため、選手を雇いたくても雇えないケースも出てきてしまいます。結局、選手の想いと球団の想いを考慮した結果、選手側の権利を守るために「選手の合意」を特例として認めたルールなのでしょう。

年俸調停とはなにか

減額制限内に収まっているけれど、提示額に不服がある場合なかなか契約成立には至りません。契約が成立しなければ、次のシーズンに参画できず、また前述の通り自由契約を選択することは出来ないので、球団・選手は年俸調停を申請することができます。(正式名称は「参稼報酬調停」)

年俸調整は次のように規定が定められています。

第94条 (参稼報酬調停)
次年度の選手契約締結のため契約保留された選手、又はその選手を契約保留した球団は、次年度の契約条件のうち、参稼報酬の金額に関して合意に達しない場合、コミッショナーに対し参稼報酬調停を求める申請書を提出することができる。

第95条 (参稼報酬調停委員会の構成)
コミッショナーが前条による参稼報酬調停の申請を受理した場合、参稼報酬調停委員会を構成しなければならない。

第96条 (参稼報酬調停の方法と時期)
参稼報酬調停委員会は、選手本人、当該球団の役職員1名からそれぞれの希望参稼報酬額及びその根拠を聴取し、調停を行う。このとき、参稼報酬年額を記入する箇所のみを空白とし、当該選手と球団が署名した統一契約書を提出しなければならない。この時点で当該選手は参稼報酬のみ未定の選手契約を締結した選手とみなされる。参稼報酬調停委員会は、コミッショナーが調停の申請を受理した日から30日以内に調停を終結し、決定した参稼報酬額を委員長が統一契約書に記入後、所属連盟に提出することとする。

つまり、年俸調停を申請して選手と球団が申請書に署名した段階で、年俸未定のまま契約は成立した状態となります。選手側、球団側のどちらか一方が拒否した場合、選手は引退の道を選ばざるを得なくなります。

年俸調停が開かれると、そこで決められた調停額は変えることができません。この額に不服がある場合、選手は契約を破断にして任意引退の扱いとなります。任意引退とは、選手自らの希望で辞めた場合にこのように呼ばれます。任意引退した場合、改めてプロ野球界に復帰するためには最終所属球団に復帰しなければいけません。もし、他球団に復帰する場合には最終所属球団の許可が必要になります。

調停の結果を拒否することは、選手にとってマイナスであることは間違いありません。

年俸調停は選手のための権利ですが、この制度が導入され40年以上経過しても、実際に調停に至ったのは、わずか7人(2023年12月現在)しかいません。そして契約調停を行った選手がその球団にずっと居続けるケースはなく、調停後3年以内に戦力外通告を受けたり他球団へ移籍しています。

過去に年俸調停を行った選手

名前球団調停結果
1973年レオン・マックファーデン阪神任意引退
1991年落合博満中日契約の2年後に FA 移籍
1992年高木豊横浜契約の翌年に戦力外通告
1996年野村貴仁オリックス契約の翌年にトレード
1998年アルフォンソ・ソリアーノ広島任意引退し MLB へ移籍
2000年下柳剛日本ハム契約の2年後にトレード
2010年涌井秀章西武契約の3年後に FA 移籍

選手側からの年俸調停の申請は苦渋の選択です。一般人からすれば、プロ野球選手の年俸はとんでもなく高額であります。2億円の年俸が 5,000万円になっても超高額であることに変わりないと感じてしまうのですが、前年度の税金の支払いやコンディションを整えるための費用など、大きくお金を使わなくてはいけない場面もあるので、単純に額面だけで理解するのは難しいのかもしれませんね。

以上、プロ野球の協約で定められている「減額制限」と関連する制度についてでした。

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